ここでは過去の視察や研修の報告書を掲載します


視察報告書(平成241010日~11日)

7回 全国市議会議長会研究フォーラム in松山

知立市議会議員 市政会 田中 健

 

今年で3回目の参加になる本フォーラムだが、これまでも議会改革を主なテーマにしており、現在まさに改革真っ最中の我々にとって、大変刺激になり且つ参考になってきた。

今回は第1日目に、元鳥取県知事であり、前総務大臣の片山善博慶応大学教授による基調講演「地方自治の課題と議会のミッション」と、議会に関する著書で有名な佐々木信夫中央大学教授をコーディネーターに、江藤俊昭山梨学院大学教授、金井利之東京大学大学院教授、坪井ゆづる朝日新聞仙台総局長、そして開催市である松山市議会の寺井克之議長をパネリストにしたパネルディスカッションを「地方議会における政策形成の在り方について」というテーマで行った。

2日目は牛山久仁彦明治大学教授をコーディネーターに、昨年の東日本大震災で被災した3つの市議会の議長が「大震災における議会の役割」についての課題討議で事例報告を行い、中邨章明治大学名誉教授がコメンテーターを勤めた。

 

1)基調講演

片山氏の基調講演では「義務教育と議会」について、多くの時間を割いて話をされた。昨今のいじめ問題もあって、大変関心の高いテーマだが、ともすると議会は教育行政に関して「金は国の責任」、「人は県の責任」、「問題は学校の責任」と責任追及に終始するが、実は議会の責任は大変重いということを再確認した。

片山氏は「義務教育は自治体の最重要課題」としてまず教育行政の根幹をなしているのが教育委員会であるが、議会はこの構成員である教育委員に関して「選任同意の最終判断」を行っており、したがって教育行政の経営者である教育委員会に関する責任は、議会にもある。市長が選んだ委員を議会は追認しただけでは議会の体をなしていない。同意するからには、「今の教育現場の厳しさからして、教育委員は名誉職などではなく、生半可な気持ちでなってはいけない」というくらいの目線を備え、市長の推薦人を議会に呼んで、聴聞し慎重に吟味するくらいのことがあっても良い。

そのためには議会は教育現場の課題を把握していることが大切であり、そのためには現場の声を聞くために、校長を参考人招致するくらいの姿勢があっても良い。現在の教育現場の課題は

①先生が多忙化している(いじめ、不登校、モンスターペアレンツなど)。

②公立の小中学校の教員の非正規化が進行している。

解決の例は、国や県の制度がなくても自治体独自で教員の加配、専門家(カウンセラー)の配置などいくらでもある。特にスクールカウンセラーの役割は大きいが、素人の先生が対応しても専門家ではないから時間だけ取られてうまくいかない。フィンランドの例などを参考にすると良いそうなので、今後の調査検討項目に追加する。

何もしない教育委員会に対して、「形骸化している」などと議会が批判するが、その人達を選んだのは誰かということを再認識し、その責任の重さを自覚するべき。

続いて「目立つ首長」というテーマに展開され、地方自治が活き活きと世の中に伝わるのは良いことだが、決定権のない首長が議決機関である議会の支持を得られていることは大切である。二元代表制と民主主義という観点で、独任制・ひとりで考える首長に対して、議会は合議体であり「多様な考えを踏まえて判断する」という本質があり異なる役割を果たしている。

開かれた議会とは、「議会報告会=決まったことを報告する」ことだけでなく、「決めるまえに聴く、聞いてから決める」、例えば公聴会などを開くことも重要。最終決定権者は議会であることを改めて考えてほしい。

議会は執行機関追認では存在意義がない。自ら考え、調査し、判断する力が求められる。これからはそれをさらに形にしていく力が要求される。議会次第で自治体の雰囲気が変わることさえあることを痛感した。

 

2)パネルディスカッション

パネルディスカッション「地方議会における政策形成のあり方について」は、佐々木信夫氏は、行政改革の論理と、議会改革の論理は違う、「行政改革=量の改革」、「議会改革=質の改革、政治の質を高める改革」である。政治の(地方議会の)役割は、1:決定者、2:監視者、3:立案者、4:意見の集約者、である。地方分権がすすんだことで「霞ヶ関が責任をとる政治」から「住民が責任をとる政治」へと変わってきている、と論じた。

江藤俊昭氏(パネラー)は、「行政改革=効率性重視」、「議会改革=地域民主主義の実現」と位置付けし、様々な利害を調整し統合する「政治」が重要になってきた。「表決の前の晩眠れるか?」それくらい、重大な権限が議会にある。議決責任がどれだけ自覚できるかがポイント。それを踏まえると住民と話し合う、議員間討議する、という考え方になっていく。

金井利之氏(パネラー)は、そもそも「地方議会」という呼称は使わない。それは中央からの目線であって、正しくは「自治体議会」と考えている。政策形成の主役は自治体行政組織であって、自治体議会は、政策形成において、強いけれども脇役のひとり、拒否権をもつプレーヤーとして存在しているのが実情ではないか。現実的な議会改革=何でもできるとあおられてその気になると怪我をする=現状では主役になるのは非常に困難、強い脇役であることを理解したうえでやるとよいのではと論じた。

坪井ゆづる氏(パネラー)は、昨年の統一地方選挙で見えてきた自治の4つの危機、①低投票率、②3ない議会、③ケンカ民主主義の台頭、④進まぬ分権を分析し、行政は合理化を進め、議会は住民サービスの充実を求めるという相反する立場の中で、自治の主役は議会と論じた。

3ない議会とは「①議案の修正又は否決」、「②議員提出の政策条例」、「③議員個人の賛否の公開」であるが、我が市においても①、③は現在すでに実施しており、②についても準備が進んでいる。①が行われていない議会の言い訳は「当局と事前協議ができている」としているが、これに対して氏は「予算が膨らんでいる時代はそれで良いが、削られていく時代は、選択を公開でやるべき」と論じ、私も大変共感した。ただし、主役、脇役についての私の見解は、議会はその重い職責をしっかりと受け止めたうえで、自治の主役は行政での議会でもなく住民であり、常に地域の発展と住民のニーズを踏まえ、さらに外から学んだ様々な情報を加味し、執行機関に対し是々非々で最善の選択を提唱していくことができる「名わき役」であるべきと考えている。議員立法についても、議会には予算がないので条例も「理念条例」になってしまうことは免れられない。こういう会議では珍しく意見の食い違うパネラーの意見を聞くことができ、有意義だった。

 

3)課題討議「大震災における議会の役割」

南相馬市議会議長 平田武氏から「過去にも東海村事故のあと、学校にモニタリングポストを設置してほしいと言ったことがあったが、安全神話で聞き入れてもらえなかった経緯があった。発災後、各議員は避難呼び掛けなど地域で行動していた。315日 議会に災害対策会議を任意で発足、議員が個々で収集した情報要望を議会として集約整理、災害対策本部へ提供。511日 東日本大震災および原発事故対策調査特別委員会設置。避難所、仮説住宅の現地調査、要望活動。県教委、東電、県、国交省、東日本高速道路などに要望。決議、意見書提出、被災市町村との連携を議会として行っている」という事例報告があった。

名取市議会議長 渡邉武氏から、「発災当日、3月定例会会期中の会議のない日。被災で2名議員が亡くなった。以後会議を中止、16日に会期6日間延長のみ議決、23日予算案議決、閉会。4月 議員相互の情報交換会を議会内に任意設置。支援について要求書提出。527日、東日本大震災復興調査特別委員会を全議員が委員となり設置。議員数減により委員会を4から2に暫定的に減する条例改正。7月 特別委員会委員を派遣する「東日本大震災復興懇話会」仮設住宅東8ヶ所、JA、漁協、PTAなど5団体と開催。チラシや災害FMで参加呼び掛け。議会報告会の経験が活きた。参加271名。復興計画案に対し議会から提言(17月、29月)。241月 議員改選、特別委員会を再び設置。今後=仮設住宅集会所など市内16ヶ所で議会懇談会を予定。議会として住民意見に立った復興の進捗にあわせた活動を」との事例報告があった。

陸前高田市議会議長 伊藤明彦氏から、「発災、3月定例会は自然閉会、予算は審議未了廃案。避難誘導にあたった議員2名被災死。4月、臨時常任委員会で所管事務調査、被災状況調査。特別委員会設置の意向確認。議員任期延長。6月 各方面に要望活動。東日本大震災復興対策特別委員会設置。7月 市内3ヶ所で特別委主催住民懇談会。9月議員改選。改めて特別委設置。10月 議会基本条例一部改正、復興計画を議決対象に。11月 議会報告会10ヶ所、市長に提言提出。12月 震災復興計画議決。245月議会報告会10ヶ所」という事例報告があった。

コメンテーター 中邨 章氏(日本自治体危機管理学会会長)から、「議員と危機管理についてこれまで(震災前)ほとんど論じられてこなかった。2005年中邨先生調査 対象190名、約半数が区議「議員の方々の危機管理に対する意識、認識、知識、経験が不足している」自治体が危機に直面したことがある26%、その約6割が大規模自然災害。ボランティア経験者は23%、自身が危機に直面した経験20%。危機管理関係の決議提出経験7%、意見書21%、危機管理関係条例の提案5%。議会が危機管理に関わることの問題点としては、危機管理は執行部がやるもの、と位置付けられてきた。住民にとってはー議会としての活動とボランティア活動の相反する要求がある。議員はー議員の個人としての行動(地域で住民とともにボランティアなど)と「議会」の構成員としての両面がある。これから「議会」「議員」がすべきこととして、「市民への啓蒙活動と教育」に励んでほしい。特に「自助」の啓蒙。議会では図上訓練などを実施し、住民むけに用意し議会みんなで取り組んではどうか。あわせて議会版のBCP(事業継続計画)作成を提案された。これは事後対応において=組織間協力の後方支援、ボランティアと行政の仲介、紛争の解決、自治体のルーチン業務の優秀性を伸ばす効果がある、とした。

その後のディスカッションでは、以下のコメントがあり、特に3議員の言葉は経験者として重かった。

・         「議員の役割を明確にしておくべきだった。どうすべきかというマニュアルを作っておいたほうがいい。対策本部と議会との連絡調整も大事(高田・伊藤氏)」。

・         「災害の種類によって異なる。原発は人災。議会は一定の方向をもって行動を起こさないといけないのでは。不安定な中にあってこそ、議員が足並みを揃えた行動をする必要。(南相馬・平田氏)」。

・         「地元での行動が主体である議員。避難誘導に最後まで残った議員が亡くなった。執行部が対応に追われているとき現場で議員があれこれ言うと混乱をきたす危惧もある。だから議員はつなぎ役を果たすもので、地域でリーダーシップをとるというのは違うのでは。(名取・渡邉氏)」

・         「初期、中期、と行動計画を立てられるとよい。住民(暮らしと要望など)も時期によって課題が変わる、タイミングを逸したと感じた場面があった(南相馬・平田氏)」

・         「報道は入ってこなかったので、外部情報ない。災害対策基本法に議会の責務、役割は書かれていない。が、現場では必要に迫られ行動していた。(平田氏)」

・         「議長と事務局長が災害対策本部に入り、得た情報を議員に共有。混乱の本部に入ってあれこれ言うよりまず共有し市民に伝え混乱を抑制する行動をとった。(渡邉氏)」

・         「議会は住民意見を聴くことが大事。丁寧にききとりながらとりまとめ、反映させること。復興計画に提言していった。(伊藤氏)」

・         「災害対策本部と議会の関係=情報をしっかり伝えることが重要。情報共有。内の情報を外に伝える。会派は、足並みを揃える手間がかかり足をひっぱる側面もあるが、長にとってはやりやすい。3つの種類ごとの対応課題、1:小規模な災害、単独自治体で対応できるものはある程度対策は備えられている。2:近隣自治体の協力で対応できるもの。3:戦争状態のような非常時・大規模災害。3はまだまだこれから。議員には4つのシキが求められる。認識 意識 知識 組織。(中邨氏)」

 

【総評】今回も大変有意義な会議であった。議会の役割の重さ、政策形成のあり方、来るべき災害時にどのように備えていくべきか、など、くのことを吸収でき、今後これをさらに知立市の議会改革に役立てていけるものと確信した。

 

 


平成242月 市政会視察報告書 

知立市議会 田中 健 

213日 茨城県つくば市 「NPOによる障がい者就労支援」について

昨年秋、自治体クラウドの調査をインターネットで行なっていた際に、たまたま「salesforce」というクラウドサービスを提供している会社のサイトに辿り着き、実績などを調査していたら、その会社のコンベンションで五十嵐さんというかたのスピーチをしている動画を発見しました。彼はつくば市の市議会議員でありながら、NPO法人「つくばアグリチャレンジ」を立ち上げ、「ごきげんファーム」という農場を運営しているというものでした。興味を持って「ごきげんファーム」で検索してみると、農場長の伊藤さんのブログがヒットしました。その内容に胸を打たれ、それ以来いつかここに視察をしたいと思っていました。以下がそのブログの内容です。

 

 

(参考資料)伊藤農場長のブログ

 72526日と千葉県立東葛飾高校から高校2年生の朝倉美香さんがインターンシップに来てくれました。今日からは、他にも2名の方が同じ東葛飾高校からインターンシップに来てくれています。美香さんは、働く意味を探したいという目標を持って今回のインターンシップに参加しました。私も五十嵐議員事務所でのインターンシップがきっかけで今の仕事を始めました。

私がお世話になった分を、このような形で少しずつ後輩に返していければと思っています。二日間という短い期間でしたが、美香ちゃんが感じたことをまとめてもらったので掲載したいと思います。少し長くなりますが、是非読んで頂ければと思います。

 

 
   

 

 

 

 私はごきげんファームの皆さんのおかげで、「人は何のために働くのか」という問いに答えを見つけることができました。 1つ目は、「人の役に立てる喜び」です。一緒に働かせていただいた障害者の方は、本当に楽しそうに生き生きと仕事をこなしていました。私が作業の仕方で困っているとき、誇らしげに教えて下さるその目はとてもキラキラしていました。私もトラクターを一列かけ終えたとき、働くってこんなに楽しいんだ!と感じました。人から必要とされる幸せ、仕事をやり遂げた達成感、そんなところに働くことの意味があるのだとごきげんファームの皆さんに教えていただきました。2つ目は、「成長できる喜び」です。ごきげんファームで過ごした2日間でたくさんの方と出会い、全ての方が私を成長させてくれました。ごきげんファームでは色んなバックグランドを持った方働いています。生き生きと働くごきげんファームの皆さんの姿にパワーと気づきを頂きました。また、一緒に働いたことで強く感じたのは、これほど働ける方々(障がい者)の働き口が少ないのはおかしいと思います。ごきげんファームを成功させて、全国的にもっとたくさんの障害者の方が働けるようになってほしいです。将来どのような形で働くにしても、今回の経験で得た働くことの意味を考えて、社会のために働いていきたいです。そのためにも、今は勉強や部活、学校生活を頑張って大きな人間に成長していこうと思いました。2日間という短い期間でしたが、本当にありがとうございました。また大好きなログハウス、畑に帰れる日を楽しみにしています。千葉県立東葛飾高等学校 Aさん

 

その後も「ごきげんファーム」の事業内容や成果を調査していく中で、代表の五十嵐さんも、

<「ごきげんファーム」は「障害の強み」を最大限に活かすことで従来の農法では難しい農業経営を目指している。「障害の強み」などというと鼻息荒く、ちょっと無理している響きがある。でも、農業では本当に障害が強みとして活きるのだ。例えば、ある知的障害を持つスタッフは一度に5粒の種をつかみ驚きのスピードで1粒ずつ間違いなく正確に落としてくれるので種蒔き作業が一気に進む。あるアスペルガー症候群のスタッフは仕事をきっちりとこなすことを得意とし、彼がトラクターでムラなく畑を耕してくれるので安定して肥料が撒ける。ある自閉症のスタッフは草取りを開始すると驚異的な集中力で一本も残らず黙々と草を抜いてくれるので農薬を使わなくても虫があまりつかない。結果として、農薬をじゃぶじゃぶ撒かずとも栽培が可能となり、付加価値の高い野菜を作ることができる。何よりも大切なのは、そのことにスタッフ自身が大きな誇りとやりがいを感じていることである。農業といっても何でもいいわけではないのだ。例えば、農業を看板にしているある福祉事業所では、近所からもらってきた植木ポットを障害を持つ利用者が洗い10円で販売するだけ、といった事例も耳に入ってくる。彼らの自尊心は相当に傷ついている、とも。今の社会で一般に「障害」とされてこといることを、強みとして活かし輝かせることも、逆に浪費し潰してしまうのも、環境次第だと感じる。「障害はその人の内側にあるものではなく、社会の側にあるもの」という考えは今や福祉先進の北欧諸国では常識になりつつある。誰しも持っている能力を発揮する環境さえ創られれば、その可能性は着火し、爆発する。スタッフの自信あふれる最高の笑顔を見るにつけ、その思いを日々強めている。>

と、コメントしています。

今回は実際に現地を確認して、現場の声を聞いてみたいという思いが実現した形での視察になりました。

対応していただいた伊藤さんは昨年筑波大学を卒業したばかりの23歳の青年です。この若さでNPOの立上げ作業を全面的に任され、現在は8名のスタッフと40名の障がいを持つ作業者をまとめる農場長を務めています。最初に基本的な障がい者就労支援施策に関して説明をいただきました。

1つ目の事業背景としては障害者自立支援法で企業に対する障がい者の雇用のルールが決められたにも拘らず、法定雇用率を達成している企業は50%にも達しない状況です。そもそも法定雇用率の1.8%(従業員1000人の会社で18人の障がい者を雇用する)でも、障害者人口の5.9%にしか達しない数字であるにも拘らず、それすらも実現しない状況です。その背後には企業が障がい者の扱い方が分からず、たいした仕事ができないと思っているという実態もあります。であれば障がい者にとって生きがいを感じながら働くことができる場所とメソッドが事業者として実現できないか?というテーマに辿り着きました。

もうひとつの事業背景として、農業の高齢化が進み、後継者不足が深刻化していて、農業従事者の減少に伴い、遊休農地、耕作放棄地が増加しています。あわせて、収入も少なく農業だけで生計を立てていくことが難しい現状があります。JAに頼ると価格が自分たちで決定できず、付加価値の高いものが生産しにくいため、独自の販売ルートを確保しないと農業が経営として成立しないため、従事が難しくなります。であれば農業の新しい担い手と新しい流通ルートを確保することが重要課題です。

これら2つの課題「①働く場所のない障がい者」と「②担い手不足の農業」を独自の視点で掛け合わせ「マイナスをプラスに」したものが「ごきげんファーム」ということでした。

■つくばアグリチャレンジ設立趣旨

今日、障害者の働くことの出来る場所は限定されている。「障害者の雇用の促進等に関する法律」に定められた全従業員の内1.8%を障害者とする法定雇用率も五割以上の企業で達成されていない。結果として、多くの働く意志・能力をもった障害者に就労機会がなく、施設で過ごす、あるいは家庭で過ごさざるを得ない現状がある。つくば市においても、一例を挙げれば養護学校を卒業後一般就労につく生徒は、知的部門で約二割程度に留まっている。

これら障害者雇用が進まない原因としては、

①障害者の働く意思と能力が知られていないという情報の限定性の問題、

②雇用する側が障害者をどのように働かせていいか分からないという職場における適応の問題、

③障害者の低い生産性という固定概念によるコスト判断の問題、等が挙げられる。

これら課題は、健常者と同じ仕事の枠組みで雇用を試みれば確かに重要な問題である。しかし私たちは障害者一人ひとりの特性に合わせた作業環境を創造することでこれら問題を解決すると同時に、健常者では行い得ない質と量の仕事を行うことを目指す。私たちは、障害者を従業員として農業を行い、障害者雇用事業においても採算性の取れる経営が可能なことを社会に示し、障害者の雇用を促進する。同時に、障害特性に合った環境を用意することで障害者の可能性を最大限に発揮し、農業を成長産業にするための農業経営の一形態としての確立を目指す。農業生産において障害者の特性を生かした経営形態が可能となることを私達が示し、障害者雇用のモデルとして広がることで、障害者の雇用への既成概念を変えていくことができると考える。

そのために前提となることは、私達が農業生産者として、持続可能な経営を行うことである。私達が生産される農産物は「障害者が努力している」という理由で購入されるものではなく、「高品質で高付加価値である」という理由で選択される必要がある。それらを実現させることで、農業分野での雇用の広がりを生み出し、成長する農業経営モデルの一つとなることを目指す。私達は、以上のような取り組みを通じて、障害者の可能性と農業の可能性をつなげ、地域と連携・協働することにより、社会に新しい価値を提供していく。

このような活動を行うためには個人や任意団体では、責任の所在が不明確となり、社会的信用も弱く、契約締結などの経済活動のためには、法人化が必要である。当団体は、営利を目的としないことから、特定非営利活動法人が適正と考え、その活動を広く市民に支えられながら、持続的に運営していくために特定非営利活動法人つくばアグリチャレンジを設立するものである。

平成22116

 

昨年春に本格稼動を始めたばかりですが、独自のメソッドで障がい者が農業就労する際のノウハウを蓄積していって、一人一人の障がい特性を最大限に生かし、全員が役割を持って働くことができる農場を目指しています。自農場での農産物生産だけでなく、農業ヘルパーとして人手不足の近隣の農家にお手伝いにいったり、農産物を加工して高付加価値商品を販売したり、様々なプランが用意されていました。今年春からは(株)Mo-Houseとの連携によりカフェのオープンも予定しています。彼らが収益を上げることに必死なのは、それにより働く障がい者に多くの収入を支払うことができることを目指しているからである。現在は就労継続支援B型と就労移行支援の複合型だが、来年度にはより高度な就労継続支援A型を、2015年には補助金をもらわずに活動できる企業化を目指しています。

研修終了後は実際の農場を見させていただき、栽培中のベビーリーフを試食させてもらいました。有機農法で育てている葉物野菜は、甘くて美味でした。これなら付加価値をつけて独自のルートで販売できるのもうなずけました。実際に研修終了後につくば駅の構内にある地元特産品の販売店でごきげんファームの野菜を売っていました。店主に確認したところ「おいしいのでとても評判が良い。入荷してもすぐ売れてしまう」と言っていました。

障がい者支援だけでなく安心野菜の地産地消など、様々な利点を発見しました。知立市においても障がい者の就労場所は不足している状況です。しかし、行政のできることは実際の雇用に対して法で定められた補助金を支払うことだけで、事業者への支援やあらたな雇用の創出や促進まで手が届いていない現状です。これらを官民がしっかり連携を取ることで、障がい者、事業者がともにWin&Winの施策を行うことが行政にとってもWinとなります。今回の視察で学んだことを知立でも実現できないか、また行政としてサポートできることは何か、を研究していきます。

214日 千葉県船橋市 「UR高根台団地建替え計画」について

UR高根台団地は高度経済成長期の住宅不足を解消するべく、昭和36年~38年にかけて44.6haの敷地に4608戸の住宅を構えました。船橋市内には8つの団地があり、すでに1つの団地がストック活用という形をとっているが、この高根台団地は団地再生計画という新たなまちづくりを実施中です。知立市においても同じく高度経済成長期の住宅不足を解消するために知立団地が昭和41年に完成し、約2000戸の住宅がありますが、時代の変化と共にその役割を追え、とても利便性の悪い構造や町並みとなっています。間取りが悪い、横通路がない、エレベーターがない、道路が狭い、など住民からも多くの声を聞きます。また住民の高齢化、外国人の居住など新たな課題も発生しています。今回の高根台団地の建替え計画から知立東部の新しいまちづくりに関して学ぶために視察を計画しました。

ご対応いただいた都市計画課の杉田課長から船橋市の市勢と今回の建替え計画に関する経緯のご説明をいただきました。船橋市は85.63k㎡のうち64%が市街化されていて、知立市とは広さこそ違えど類似した数字の都市です。今回の団地再生に当たっては、URの事業といえどもすべてUR任せにせず、住民の意向や市の都市計画を反映させたものを実現させるために、行政がイニシアティブをとって検討委員会を設置しました。

その結果、行政の掲げる「新しい時代にふさわしい市街地に更新し、安全で快適に暮らせるまち」、「地域と周辺を結ぶ道路網の整備や、生活を支える身近な道路網の充実を図ることにより、暮らしに便利なまち」、「市街地における貴重な緑の環境を保全し、さらに樹や草花を植えることで新しいみどりを創り出すことにより、やすらぎとうるおいのあるまち」という都市計画マスタープランとのマッチングも整い、3つの団地再生コンセプトが決まった。

①大きく成長した緑を継承し育む、豊かな緑が楽しめるまち

②高齢者から子育てファミリー世代まで、安全・安心に活き活きと暮らせるまち

③ゆとりある空間と、美しい町並みが広がるまち

また、地区計画によるルール作りや都市計画の変更を行い、住み続けられる街を目指しました。

地区計画によるルール作りとは、建物の用途や高さの制限、敷地面積の最低限度、壁面の位置などについて、地区ごとにルールを定めることで、目標に定めたまちづくりを実現させるための制度です。

都市計画の変更は、低層住宅としてのまちづくりを進める地区について、将来にわたり低層住宅地として配置するために、現在定められている都市計画の変更を行いました。このように、行政、住民自治会、URが三位一体となってまちづくりを進めてきました。

会議室での説明終了後、現地の視察に赴きました。再生工事はⅠ期(平成12年着手)からⅣ期(平成22年着手)に分かれていて、Ⅲ期工事までは終了し、現在はⅣ期工事の最中でした。建設が終わっているⅢ期までの区画を見学しましたが、もちろん新しいがゆえに魅力もありますが、建物も先進的でかつシンプルな構造で、なにより町並みが美しく、開放感があり緑も多く快適な空間を醸し出していました。実は高根台団地には東の区域に再生工事を行わずに継続して管理するエリアも残されており、これまでの生活を望む住民などが住んでいます。ここはまさに今の知立団地と同じ建造物や町並みで、比較すれば同じUR団地とは思えないほど、再生された区域は魅力的でした。

知立団地と同じような一律の建造物だった建物は、駅周辺は10階建て(31m)、そこから離れると7階建て(21m)の姿を変え、高層化によって空けた周辺の地域は余剰地の有効利用として区画整理されて、低層住宅用地としてURが民間に高値で売却したそうです。これによって行政も人口、税収がともに増えました。また、高齢者向けグループホームを経営する福祉法人に中心的な土地を貸与して、地域の福祉施策にも貢献しています。これだけ充実していると、団地の家賃が心配ですが、新しい住宅の家賃に関しては、以前から住んでいる方にはURから特別な料金設定がされているようで、それほど値上げはされていないそうです。であれば、快適な住まいに変わることに反対は少なかったというのもうなずけます。行政としてもお金はほとんど(全く)かかっておらず、URとの連携により見事なまちづくりを実現させた成功事例として、知立東部の新しい将来の姿を見たという実感が持てました。

まずは行政がまちづくりの姿をしっかり描いて、住民としっかり対話を持ち、業者に対して粘り強く働きかけることが大切だと思います。現在知立団地におけるURの計画は「ストック活用」に分類されています。まずはこれを「団地再生」に切り替える働きかけからが第一歩です。

 

≪参考≫平成19(2007)12月に独立行政法人都市再生機構(UR)が「UR賃貸住宅ストック再生・再編方針」*を発表しました。 全団地(約77万戸)について、平成30(2018)年度までの再生・活用の方向性を示すもので、4つの基本的類型に応じ、個別団地毎の特性に応じて再生・活用方針を定めるものとしています。

4つの基本的類型

①団地再生(約16万戸)

まちづくりによる再生が必要とされる団地については、地域の整備課題、住宅需要等に応じて、大規模な再生事業(建替事業、トータルリニューアル等)、改善事業を複合的・選択的に実施

*建替えを実施せずに集約化して再生を図る団地もある。

②ストック活用(約57万戸)

既存の建物を有効に活用して、従来どおり、適時・適切な計画的修繕等を実施することを基本としつつ、団地毎の立地・特性に応じてバリアフリー化を実施

③用途転換(約1万戸)

将来需要の厳しい一部の小規模な団地等について、居住者の方々の居住の安定を確保しつつ、UR賃貸住宅以外の用途として新たなまちづくりに活用

④土地所有者等への譲渡、返還等(約3万戸)

全面借地方式市街地住宅、特別借受賃貸住宅において、土地所有者等へ譲渡、返還等

 


【市民福祉委員会・行政視察調査報告書】 

視察調査報告:副委員長 田中 健 

日程:平成231114日~15

場所:埼玉県戸田市、行田市

1日目≫

戸田市視察「中小企業振興条例」

戸田市役所において、遠藤英樹市議会議員、市民生活部経済振興課熊谷尚慶課長から説明を受けた。この条例は平成232月に議員提出議案として臨時議会に上程され制定されたもので、遠藤議員は当時の市民生活常任委員会の委員長としてその中心的な役割を果たしてきた。また、熊谷課長は法令に精通しており、条例文やそれに関連する振興会議等の規則、要領、規定などの作成に大きく貢献された。条例に関する下記の内容の説明を遠藤議員より受けたあと、条例により市が実施している産業支援について熊谷課長より説明があった。

(条例制定の背景)

戸田市議会では議会改革に熱心に取り組んでおり、平成21年度からは常任委員会において、テーマを決めた年間活動を開始した。これにより、各委員会が独自に目標を掲げ、特定の内容について深く追究する環境が整った。また平成11年の中小企業基本法の改正により、地方自治体はそれぞれの地域の諸条件に応じた中小企業振興のための施策を策定、実施する責務を有するとされており、これ受けて中小企業の振興のための条例を制定する自治体も増えている。

このような流れを受けて、かつ戸田市における下記のような現状を鑑みて、戸田市議会市民生活常任委員会の平成22年度の年間テーマを「(仮称)戸田市中小企業振興条例について」とした。

  1. 戸田市は倉庫産業が発展しており、かつては昼間人口が夜間人口を上回る活気のある中小企業のまちだったが、今は逆転してベッドタウン化している。
  2. 企業の倒産や流出、業績悪化が雇用や税収に影響を与えている。
  3. 企業跡地に建設される集合住宅と既存の企業の間で軋轢が起きている。
  4. 大型店の進出、ネットショップの普及などが商店の存在を危うくしている。
  5. 交通の要衝として発展してきた物流業が、道路網の普及で優位性がなくなった。
  6. 長引く不況による経営不振から、資金繰りや後継者問題を抱える中小企業が増えてきた。
  7. 円高により生産拠点が海外に移転し、下請企業の多い市内業者の受注機会を減らしている。

 これらの背景を踏まえて、その解決の有効な手段として下記のような効果を期待し、条例制定へと進んだ。

  1. 全市を挙げて、中小企業を盛り上げようという機運が高まること。
  2. 市の取り組みを再検討し、より効果的なものとしていくこと。
  3. 施策を継続的なものとすること。
  4. 中小企業の自助努力を促進することができること。

(条例の性格)

 第一に戸田市中小企業振興条例は、中小企業基本法における市の責務の実行規範としての性格を持っている。第二に中小企業を取り巻く諸問題に対し、その解決に向けて関係諸団体が取り組んでいくための制度の考え方、あり方を規定しておくフレームワークとしての性格を持っている。これによって市の施策を中心とした中小企業振興のための取り組みが一層意義あるものとなるとしている。またこの条例は「融資」「補助金」「助成金」といった個別の施策メニューを具体的に規定するものではなく、市における中小企業振興の理念、施策の基本的な方向性を示す理念条例となっている。加えて、平成226月に閣議決定された中小企業憲章にも、一部地方自治体についての記述があり、本条例はこの点も考慮に入れた内容となっている。

 単年度の常任委員会のテーマとして取り組んだため、1年で制定しており(平成223月~平成232月)、その間18回の委員会と、2度の視察、1回の関係団体へのヒアリング、中小企業者アンケート、市民説明会を実施し、41日より施行された。なお、平成237月に第9条「戸田市中小企業振興会議」の規定を加えた。

これは条例そのものが、様々な思惑の団体の総意を得るために「理念条例」的になってしまったため、実効性を担保するために設立されたもの。この会議は、中小企業経営者8人以内、学識経験者4人以内、行政機関職員2人以内、その他市長が必要と認めたもの1人の委員で構成され、市長の諮問を受けて審議及び答申を行うだけでなく、独自の調査研究を行い、市に提言することができる。

(所感)

 昭和60年に埼京線が開通し、首都圏のベッドタウンとして一気に人口が増加したことによる自治体の戸惑いと、地場産業の衰退による中小企業の危機を憂いた地元の声に対応した議会による政策立案であることに意義があると思う。一方的な知識や偏った目線ではなく、広くヒアリングやアンケート、報告会を実施した結果、理念条例になってしまったが、振興会議を設置することで実効性を担保できるかどうかは疑問が残る。また、委員にはあえて議員を加えなかったようだが、幅広い見識を持つという意味では、議員も数名加える必要があると思う。説明した遠藤議員も「具体的な政策立案がしたかったが、過程で様々な団体の思惑がからみ実現しなかった」と悔しそうに発言していたことが印象的だった。ヒアリングやアンケートなどの貴重なデータ資料も、こちらの要望に対し快く提供してくれたが、少し寂しい内容だった。知立市で同じような働きをすれば、もっと活発な議論が展開されることは十分期待できる。

 これまでは「民間のことは民間で」というスタンスが強かった。それは官よりも民が強かったからそれで良かったが、昨今の厳しい経済状況下にあって「官が民を支える」影響は大きい。しっかりと体制を整えた自治体は地元商工業者と二人三脚で進んでいけるが、怠った自治体からは商工業が流出して、これまで以上にますます厳しい自治体運営を迫られることになる。

従って、知立市においても、商工業者の発展を支援する中小企業振興条例は制定が急がれる。

2日目≫

行田市視察「包括的虐待防止事業(トータルサポート推進事業)」

 行田市役所において、行田市議会の吉田幸一議長による歓迎のあいさつを受け、その後健康福祉部福祉課トータルサポート推進担当の栗本主幹から説明を受けた。

 現在、国が実施している「安心生活創造事業(セーフティネット支援対策事業費補助金)」を受けている行田市の、地域福祉推進・総合相談支援体制の発端となっている「包括的虐待防止事業」から、市独自のトータルサポート推進事業にまで至った経緯の説明を受けた。

高齢の親が障がい者の世話をしていたり、障がいのある親が子どもを虐待していたり、障がいのある成人が高齢者の親を虐待していたり、その背景に生活保護などの生活課題があるなど、1つの担当課では対応が困難な多面的事例があった。そこで平成17年に「児童・高齢者及び障害者に対する虐待の防止等に関する条例」の制定を行った。これにより組織的な取り組みによる確実な対応が可能になり、また迅速化も計られた。24時間365日体制の相談受付を可能にするため、研修を受けた職員が12台の携帯電話をローテーションで所有する体制を作った。同時に予防対策として、市民と協働で地域ネットワーク構築を進めた。住民による自助・共助と公的サービスによる重層的な見守りを行った。そこからトータルサポート推進事業へ発展し、庁内の組織体制を見直し、福祉課、子育て支援課、高齢者福祉課、保健センターの職員が「トータルサポート推進担当」を兼務し、市役所1階に「ふくし総合窓口」を設置した。

トータルサポート推進事業の目標は「市民参加による福祉のまちづくりをめざして」というもので、正式名称は「障害者、高齢者、児童福祉の総合的な推進のための包括的連携体制構築事業」。縦割りになりがちな福祉分野の行政サービス等を組織の横断的な活用により総合的な対応ができる仕組みにするため、福祉課内にトータルサポート推進担当を設置し、健康福祉部各課の連携を図るもの。あわせて市民が参加しやすい仕組みや機会の提供により、市民参加による福祉増進を目指している。職員や市民の意識改革に大きくつながった。いくつかのケーススタディで、その有効性も確認できた。

これらの施策が前提となって「福祉のまちづくりシンポジウム」、「ささえあいミーティング」と発展していき、「地域安心ふれあい事業(安心生活創造事業)」への参加(地域福祉推進都市の指定)とつながっていった。地域安心ふれあい事業は、①ふれあい見守り活動、②いきいき・元気サポート制度、からなっており、「対象者別ではなく、すべての人の権利擁護理念に掲げて、地域福祉推進対策を連動させる「地域ケアネットワーク」における「共助」を充実させるものとなっている。

①ふれあい見守り活動とは、市と社会福祉協議会が連携し、市民、自治会長や民生委員、関係機関によるネットワーク構築を進め、小学校単位での見守り体制の充実を図っている。日ごろの支えあいは災害時の助け合いにもつながるため、災害時要支援者登録制度へもつなげている。現在1500人の高齢者・障がい者が登録しており、自治会ごとに作る「ささえあいマップ」で活用されている。

②いきいき・元気サポート制度とは、市と社会福祉協議会が連携し、支援が必要な高齢者等の日常生活を支えることを目的として、市民を主体とした活動団体との連携により、地域の助け合い、支えあいのボランティア(いきいき・元気サポーター)活動を推進している。サポーターは活動団体の派遣調整により、支援が必要な高齢者等の見守り、買い物支援などを行い、謝礼として商店街共通商品券を受け取る仕組み。サービス利用者は30分あたり350円の利用券を購入して申し込む。社会福祉協議会は500円の商品券を商店連合組合から購入して、サポーターに支払う

(見守り活動は無償)。サポーターは現在197人が登録している。

ちなみに30350円×2700円(1時間)であり、サポーターに支払う商品券500円との差額200円は団体の運営費、活動費に当てられる(自主財源の確保)。

現在の行田市の高齢化率は22.6%だが、2025年には32.5%にまで到達するという予測があるなかで、いち早く1人暮らしの高齢者世帯等が地域で安心・継続して暮らせる地域づくりを行っている。

「安心生活創造事業」の基本理念である「悲惨な孤独死、虐待などを1例も発生させない地域づくり」を実現させるための、かなり先進的な事例と実感した。

トータルサポート推進事業は、縦割りの行政機構に横串を刺す画期的な取り組みだが、これによって多くの問題が解消に向かっている成功事例。担当者の労力はかなり多く、専門的な知識も必要なので、後継者育成と、異動による業務引継ぎが今後の課題。いきいき・元気サポート制度は、「高齢者・障がい者」も「サポーター」も、「商店街」も、「社会福祉協議会」も、皆がWinWinになる素晴しい成功事例。これ単体でも事業として実施する魅力はある。

これから高齢化が進む知立市にとっても、これらの施策は重要な案件となってくるため、行政に向けて働きかけていきたい。



平成2310月 市政会視察報告書

知立市議会議員 市政会 田中 健

「全国市議会議長会研究フォーラムin青森」

【日程】平成231012日~13

【場所】青森市文化会館

【主催】全国市議会議長会 (後援)総務省

 

今回で6回目になるこのフォーラムは、全国から市議会議員が約2400人参加して、基調講演やパネルディスカッション、課題討議などが行われた。私は昨年に続いて2回目の参加だが、昨年のパネルディスカッションで初めて「議会改革」という言葉に触れ、講師の意見に共感し我が市議会においてもその必要性を強く実感したことから、その後の知立市議会における議会改革の議論にも率先して参加することができた経緯がある。今年のテーマも「議会改革」が中心的なテーマとなっており、専門家の意見や先進市の様々な例を聞くことができた。昨年と大きく異なることは、昨年は知立市議会においてまだ具体的な改革が始まっていなかったので机上の理論として聞いていたが、今回は昨年12月に我が市議会においても「議会改革」についての議論が始まり、すでにいくつかの内容が実践されている。あわせてこれまでに様々な先進市の事例や書籍も読んでいたため、内容についての理解度も上がっており、具体的な比較も検証もできた。そういった意味では、今後の更なる議会改革へ向けての有意義な内容でもあり、加えて現在我が市議会が進めている議会改革の方向性ややり方が、かなり核心を突いているものであることを確信できた。

 

1012

(1)    基調講演

        講師:増田寛也(元総務大臣、元岩手県知事、野村総合研究所顧問、東京大学大学院客員教授)

テーマ「二元代表制と地方議会改革」

今回の震災を受けて、災害と地方自治というテーマで講演が始まった。平時と有事では議会の役割も変わってくる。被災地では基礎自治体の力の差が復興の差として出てしまっている。基礎自治体の力の差とは「首長のリーダーシップ」と同時に「議会の存在意義」でもある。対応の遅れている行政を叱咤激励、率先垂範できるのも議会、議員の役割でもある。首長と同じく住民から選挙で選ばれたものとして、有事の際にはもっと前に出て闘うべき、という持論でした。

鹿児島県阿久根市や名古屋市などの、首長と議会の対立について、「住民受けしやすい政策が先行するポピュリズム的な首長」と、一方では「政策立案を行わず議員個人の議案への賛否も明らかにしない保守的な議会」などの議会の不透明さに対して、住民が不信感を抱いていると指摘した。あわせて「3ない議会」などと呼ばれるだらしない議会が全国には数多くあることも問題。

3ない議会とは

     首長が提出した議案を修正や否決しない「丸のみ」議会。

     議員提案の政策条例が1つもない「無提案」議会。

     議員個人の議案への賛否を明らかにしない「非公開」議会。

のこと。今年2月に朝日新聞が行ったアンケート調査では、全国都道府県と市区町村の計1797の議会を対象に実施し、「行政監視」「政策立案」「情報公開」のすべてが不十分だった議会は653議会と全体の約1/3あった。

確かにこれでは住民からみて働いていないと思われても仕方がない現状だ。首長の「議員報酬半減、もしくはボランティア議員」に住民が大きく賛同するのも否めない。これからは同じく住民の代表として選挙で選ばれたものとして、どちらがより誠実な働きをしているか首長と議会が競争する時代かもしれない。

地方自治法の改正によりこれからますます地方議会の果たす役割は重要になってくる。その中で首長との関係はもちろん、議会の機能・権限強化や議会の活性化は必須項目となる。平成226月に出された「地域主権戦略大綱」では「ひも付き補助金の一括交付金化」や「地方税財源の充実確保」がうたわれているが、今後は地方議会でも税条例が問題となってくる。その中で自治体がどのようなまちづくりを目指すかで内容は変わってくるが、将来的には「高サービスと高課税」をいかに住民に理解してもらうかが重要な課題となってくる。

 

(2)    パネルディスカッション

        コーディネーター:新藤宗幸(東京市政研究会常務理事)

        パネリスト:宇賀克也(東京大学法学部教授)、金井利之(東京大学公共政策大学院教授)、青山彰久(読売新聞社編集委員)、花田明仁(青森市議会議長)

テーマ「地方議会と直接民主主義について」

初めに各パネリストから研究課題について発表があった。

     宇賀教授「住民訴訟と地方議会における権利放棄議決」

住民訴訟と直接民主主義について裁判例などをあげて話があり、理論上の問題点があげられた。

     金井教授「地方議会と直接民主主義」

議会不信と直接民主主義、代理人としての議会から広場としての議会へという話だった。議会不信のプロセスとして

議会が住民全体の意向を正確に反映していないという議会不信(代理人としての議会の機能を果たしていないという評価)→議員定数削減、議員報酬・政務調査費削減、議員活動への監視、議会廃止へエスカレートしていき、首長のリーダーシップへの期待が高まり、住民による直接民主主義を求める

議会による防衛的反応(代理人としての議会の地位が脅かされることへの面子的・本能的抵抗)→住民参加嫌い、住民投票嫌い、議会軽視への反発、など

こういった議会の反応が更なる住民による議会不信へつながる

としている。結果、の不信の連鎖の安定的均衡が存在しており、首長や住民は議会を抵抗勢力(悪役)に仕立てて、自らを改革勢力に見立てることで自己満足している。議会は表面的議会改革によって、既得権益を維持している、と評価している。

     青山編集委員「地方議会と直接民主主義」

阿久根市と名古屋市における「議会の否定と喝采型政治」で話が始まり、その構造と地方自治について分析を披露した。また自治体の基本構造としての地方政治制度についてのまとめはわかりやすかった。

首長と議会の二元代表制…地域社会を統合するという政治の役割

        首長…住民から一人が選ばれるため「住民の多数意思の代表」

        議会…住民の中にある様々な意見や階層を代表することから「住民の多様な意思の代表」

        二元代表制…憲法第93条に基づき、「住民が自分たちの代表機関である首長と議員を直接選挙で選ぶ」、「首長も議会も住民に直接責任を負う」、「首長と議会は住民のために行動することを目的として、緊張関係の下で協力し合う」、という要素で成り立っている。

        制度が目指した姿…自治体政策は本来、十分な情報公開を行って住民参加の場を作りながら企画し、多様な意見と利害を調整して立案・決定しなければならない。地域の中の多様な意見をもとに、首長と議会は説得したり説得されたりしながら自治体の進む方向を意思決定する。首長は、政策立案と執行に一貫性を発揮できる。議会は多様な意見をもとに、討論によって論点を明確にし、首長の独善的な自治体経営をただすことができる。

二元代表制の現実…間接民主主義への失望と自治体政治に対する住民不信

        劇場政治型首長…自分の意見に反対した議会を妨害勢力とみなし、「自分に議会を説得する政治的能力が乏しかった」とは考えない

        居眠り議会…議員は自分の後援者の要望を行政機関に取り次ぐ「口利き」に終始する。首長を支持した議員は影響力を行使するために舞台裏で話をつけ、支持しなかった議員はひたすら攻撃する。個人の活動はあっても「住民代表機関」としての議会の活動はない。

議会改革の基本的な方向性…多様な住民意思を鏡のように反映して議論する議会

        議会として住民と対話する場の増加…党派を超えて住民との対話の機会を定期的に作り、多様な住民の意見を意思決定に反映させる(議会報告会、公聴会、参考人制度の拡大)

        自由な議論の拡大と情報公開…広範な住民対話で得られた多様な意見をもとに議員同士が公開の場で自由な討論を増やす。議会情報の公開は、自由な議論の質が高まって意味を持つ。

     花田議長「選挙を通じて、議会改革の必要性を痛感したことから」

昨年10月に行われた市議会議員選挙において、過去最低の投票率を記録した。市議会としての成果が市民に実感されなかったため、市議会への期待と関心が希薄になったことも一因と、強い危機感を抱いている。10月初旬に初の議会報告会を開催して、90人の市民が参加した(30万人都市)。

その後の議論で印象に残ったのは、選挙による低投票率への評価についてで、

     低投票率は1票の重みが増すので、必ずしも悲観的ではない

     権利があっても行使しないのは、商品に魅力がないから

     高投票率はポピュリズムの象徴でもあり、視聴率を気にするTV局のような発想はやめたほうがいい

     今の地方議員は権限が少ないので、そのような人を一生懸命選ぶ作業に魅力がない

などという意見があった。


1013

(3)    課題討議

・  コーディネーター:牛山久仁彦(明治大学政治経済学部教授)

・  報告者:佐々木勇一(帯広市議会副議長)、玉川喜一郎(越前市議会議員)、安本美栄子(伊賀市議会議長)、池田惠一(京丹後市議会議長)

テーマ「議会基本条例について」

初めに、報告者から各市の紹介と、議会改革の特徴について報告があった。概ね主張の内容は共通していたので要約すると、まず議会改革の大きな流れとして「改革先行型」と「条例先行型」がある。どちらも長所短所はあるが、4市に関しては「改革先行型」を主張していた。ただ感想としては改革先行とは言っても、「本質的な議会の体質を変えるような改革」ではなく「市民の声に対する、帳面消し的な対応の改革」と感じる消極的な内容もあった。一番顕著に現れたのが「当局の反問権の行使」と「議会報告会」についてだった。改革に積極的な議会では「反問権は、反問されたことで議員は持論を主張できるのだから大歓迎」という意見があり、私から見てそうではない議会では「勉強の差や、議員個々の能力の差が出てしまう」という消極的な意見もあった。同じく議会報告会についても「まともな質問や意見はほとんど出てこない」、「勉強するのがいや、努力するのがいやな議員、他の議員と比べられるのがいやな議員は開催に最後まで反対した」、という報告もあった。改革というものは、表面的な仕組みを変えることだけではなく、それによって議会活動に消極的な、議員の考え方や議会の体質まで変えていく必要があると感じた。それでも伊賀市議会などは抵抗精力の反対を押し切って改革を推し進めている。とても力強く感じた。また、「議員定数、議員報酬問題と議会改革は別問題。議論は必要だが一緒にしないほうがいい。」という意見もあった。これは「行政改革」と「議会改革」を混同している市民の声にそのまま反応してしまうと、本筋をはみ出してしまう可能性があるという。行政改革は「少ないほうが良い」という発想でよいが、議会改革は「市民の代表として十分に機能を発揮する必要がある」ので、「削減=弱体化」であっては本末転倒になる。これから地方分権化が進む中で「首長の権限」が強化されていくため、それをチェック・監視する議会もあわせて権限強化していく必要性をあらためて感じた。

 

◆総括

学者の意見や先進市の報告を聞いて、知立市が現在進めている議会改革の方向性や進め方が、かなり核心をついたものであることを確認できた。条例先行型でなく、改革先行型をとっており、すでにいくつかの改革を実践している。何より素晴らしいのは全ての会派が改革を進めることに賛成していること。他市では抵抗勢力もあり、苦労している所もあるようだ。加えて自治法改正により、地方への権限移譲が進む中、議会が権限と能力をつけていかないと、どんどん取り残されていく。これまでの自治体運営は、国、県の方針に従って行われていたが、今後権限が移譲されれば、基礎自治体の理事者の意向が強く反映さる。だからこそ正しい運営が行われているかをチェックする機能(議決権)や修正させる能力を議会がつけて行くこととそのような仕組みづくりが重要になる。また、首長と同じく選挙で選ばれた市民の代表として、政策立案能力が求められる。議員としての基礎体力はこれまで以上に高いものが求められるようになってくる。やりがいのあるタイミングで議員になれたと実感した2日間だった。

 


平成237月 市政会視察報告書

知立市議会議員 市政会 田中 健

74日 徳島県徳島市 「みちピカ事業」

徳島といえば「阿波踊り」。8月の期間中(4日間)130万人という多くの観光客を国内のみならず、世界中から集めているこの地において、踊りの場としての道路はもちろん、観光客を迎える町の美観を守るため市民と協働で道路愛護活動を進めるという事業について研修を受けた。

研修に先立ち、徳島市議会事務局長の松田平和氏から歓迎のごあいさつをいただき、徳島市についてご案内をいただいた。当会派石川会長からお礼のご挨拶をしたのち、早速会議に入った。

ご対応いただいたのは、徳島市役所道路維持課課長補佐岩花秀典氏、同課係長佐野氏、担当亀井氏。

徳島市には1540㎞にわたる認定市道があり、国、県が実施している道路アドプト事業を受けて、平成184月から市としても実施した。アドプトとはいわゆる「養子縁組」のことで、市が管理する一定の場所を団体にお任せすることを意味する。本事業においては、市から認定された道路愛護団体が行う道路愛護運動事業(市管理道路での清掃、除草活動)に対する支援を市が行い、道路環境美化だけでなく、道路愛護の意識高揚を図り、道路利用者のマナー向上を啓発している。

平成22年のデータで、70団体、2200名が登録されており、39㎞の市道が愛護団体によって管理されている。事業費は約2,100千円で、市としての支援の内容は、ボランティア保険料、清掃道具(軍手、タオル、ほうき、ちりとり、ゴミ袋)、安全対策用品(安全ベスト、作業のぼり)、表示板(管理団体を掲示するもの)などとなっている。この表示板はその団体が管理している道路に設置されている柱などに「この道路は○△□団体によって管理されています」と記された表示板を設置するもので、団体の励みになるものだと感じるユニークなアイデアだと思いました。

この事業の実施に伴って、ゴミ自体が減少するという直接的な効果と共に、間接的には活動への参加による道路への愛着や地域の交流が深まることによる地域の活性化から、ポイ捨ての抑制、美化への関心の高まりを促し市民生活の向上を啓発面から行っているとのことだった。70団体の内訳を聞いたところ、小中学校の団体が10前後で、あとは土木関連業者と自治会やコミュニティ連絡協議会などとなっているとのことだった。興味深いのは土木関連業者はこの事業に参加していることでポイントが加算され、県などの入札の際の信頼性が上がるということもあり、参加事業者が増えたということ。100%善意かどうかは疑問だが、結果参加団体が増えるということは面白いアイデアだと思う。小中学校の団体はPTAなどの保護者の活動ではなく、ボランティアの授業の一環として子どもたちが活動に参加している。自治会としての参加は市民の目線が道路に向けられることにより、様々な土木要望につながるという副産物も得たそうだ。

今後の課題としては様々な広報を行っているが参加団体数が伸び悩んでいるということ。市の広報はもちろん、フリーペーパーなどにも掲載しているそうだが効果がないそうだ。

また、この「みちピカ事業」と連動して、「みち花ふれあい運動事業」を実施しており、花の種や苗を配布し美化運動を推進している。事業費は250千円。

当市においても道路愛護事業は実施しているが、手法など含めて今後の参考になった。

 

75日 香川県高松市 「高松丸亀町商店街市街地再開発事業」

高松市は香川県の県庁所在地であり、古くから四国の玄関口として発展してきたが、時代の移り変わりと共に様々な変化がおこり、それは中心地にある商店街にとっても死活問題にまで発展してきた。今回の視察はその危機的な状況から斬新かつ独自なアイデアで脱しつつある商店街について研修を受けた。

ご対応いただいたのは商店街振興組合理事長古川康造氏で、あいさつの冒頭に昨年だけで13,000人の視察を受け入れたとのご案内があり、この事業に対する全国的な関心の高さと完成度の高さに期待が持てた。と同時に、地方の中心地商店街が全国的に壊滅的な危機的状況にあることが伺えた。しかし、この視察の多くが商店街の人達によるものではなく、議員や行政視察だということが残念に感じた。

高松丸亀町商店街は全長480m、約22千㎡の再開発をA街区からG街区まで分けて実施している。今回の研修の結論から言うと、「衝撃を受けた。目からうろこが落ちた」という表現が合う。「一商店街振興組合でここまでできるのか」という実感だ。事実、同商店街の中で再開発が終了したA街区については、年商が3倍以上、通行量が1.5倍、固定資産税にいたっては9倍という驚異的な効果を出している。

古川理事長から、再開発に至るまでの背景についてご説明いただいた。高松市においては全体の5%の面積しかない中心地で75%の税収が発生していた。この中心地が崩壊していくということは、高松市が崩壊していくことだという危機感をいかに共有することかから始まった。この状況を一般市民に理解が得られなければ「努力を怠って衰退した商店街を何故公費を使って再生させなければならないのか?」という批判を受けることは必死。商店街としての崩壊は瀬戸大橋開通に伴い物流が活性化し、大型GMSが相次いで出店を行い、品揃えや価格競争で負けたことから始まった。商店街としての魅力を失った中心地は地価が大幅に下落しバブル期の1/11にまで減少し、市の固定資産税の減収にもつながった。また、大型GMSは一般消費者にとっては魅力的だが、多くが本部決算のため地域への税収効果は低く、市民の所得が県外へ流出することに危機感を感じた行政もやっと重い腰を上げた。

商店街としても努力はしてきたつもりだった。集客のためにありとあらゆるイベントを行い活性化を図ったが、人は集まったが売上げはなかなか上がらなかった。無駄な労力と時間と費用だと悟った。中心地活性化の根本的な問題は「土地問題、居住人口問題」という結論に至り、その解決に全力を傾けた。

土地問題とは中心地活性化を阻害しているのは実は商店主(地権者)自身であるということに気付いた。合理的に街の再生を図るため、土地の所有権と利用権の分離が必要であるという結論に至り、定借地権を使って60年間地権者が土地の利用権を放棄し組合に一任するという斬新な手法をとった。また居住人口問題はすべてのサービスを一ヶ所で受けることができるというメリットを最大限に活かせる高齢者の居住地を中心地に持ってくることで解決を図った。

全国で実施されている中心地再開発事業はそのほとんどが失敗例に終わっているが、その原因のひとつに行政主導で再開発を行い、業務を開発ディベロッパーに一任するという手法にあるということだった。まず行政主導で動くデメリットは「制度の中でしか動けない」ため、制約が多すぎで斬新なアイデアが生まれてこない。行政にはマネジメント能力が無いため開発ディベロッパーに託すが、業者の目的は「まちづくりではなく利益」であることは当然。中長期的なまちづくりではなく開発終了時に短期的でも効果が上がれば成功報酬が支払われるので、無理な契約を結び、数年で撤退ということも少なくない。こういった様々な事例を研究し、全国初の民間主導による再開発事業をスタートさせた。市は5%ほど関与しているがこれは、少しでも関与させることで自分ごととして動いてもらうため。すべてが計算づくである。民間が行うデメリットは資金が無いこと。したがって再開発に当たっては土地を買うのではなく借りた。しかも定期借地権という形なので、地権者も必ず返ってくるという安心感がある。これも結果メリットに変わった。

開発のテーマは「年をとったら住みたい街」ということで、高齢者目線、生活者目線を持って、そのための住宅整備とテナントミックスを行った。「商店街の役割はステージ作り」と理事長がおっしゃるように、街のあるべき姿を作り上げていっている。再開発ビルの高層階は「高齢者マンション」になっている。エレベーターで下りれば多種のまち医者が診療所を解説している。また商店街はアーケードに守られているので、天候に関係なく、夏涼しく冬暖かく快適に買い物ができる。生鮮4品の商店も誘致し、LLP(有限責任者事業組合)によるフードーコートも運営されている。つまり車など必要なくひとつのコンパクトシティが商店街で成立してしまっている。

これらのプロジェクトはすべて振興組合から委託されている「高松丸亀町まちづくり株式会社」が実施しているもので、専門家によるプロの集団で行っている。例えばまち医者に関しては自治医科大学と提携していて、医師の派遣を受けている。医師としても診療所の高層が高齢者住宅ということで「在宅医療(巡回診察)」が可能になり、これは医療点数も高い行為なので100人ほど患者がいれば採算が取れる。また、高度治療は総合病院との支援体制が整っており、治療後経過観察は診療所の上にある自宅で行えるというメリットも患者側にある。まさに高齢者にとっては理想的な居住環境である。

テナントに関しては新陳代謝を図るために「起業家支援」なども行っている。また警備などは高齢者団体などと契約して行っている。整備された広場では年間200本以上のイベントが実施されている。

地権者にとっても再開発が完了したA街区では110人の地権者に対して平均で年8%の配当(坪11,000円)ということで、満足のいく結果となっている。

再開発開始から16年間が経過しているが、権利調整、合意形成には約4年しかかかっていないそうだ。残りの12年は現行法との調整にかかったもので、現在でも大変苦労されているそうだ。しかし古川理事長いわく「商店街の再生は地方都市再生のストーリー」、「土地問題を解決しない限り、都市問題の解決はありえない」。「本気で自分たちの資産を守る覚悟があるなら、すべてを白紙に戻して所有権と利用権の分離に踏み切るべき」とのことでした。そして最後に「市は本気で市を守る覚悟で取り組んで欲しい」と締めくくりました。大変重たい、貴重なお言葉をいただきました。

 

 

研修終了後、理事長のご案内で開発が終了したA街区を視察しました。


平成232月 市政会視察報告書 

(知立市議会議員 市政会 田中 健) 

29日 山梨県甲府市 「鳥もつ煮によるまちおこし」

昨年秋、たまたま見たテレビ番組で『甲府鳥もつ煮』のフィーバーぶりを目にした。山梨県の県庁所在地であるにもかかわらず、景気の低迷の影響を受け、閉そく感のある町に突然大挙して観光客が訪れていた。このきっかけを作ったのが若い甲府市職員の有志だと知ったのはしばらくしてからだった。地元にしっかりとした製造や観光の産業がある地域ですら不況であえいでいる中で、そのような資源に乏しい地域でもひとつのチャンスをきっかけに地域を活性化していくサクセスストーリーをぜひ勉強したく、この地を研修地に選んだ。

甲府市は戦国時代には武田信玄公のお膝元として栄え、その功績は武田神社として残っている。また平成百景の第2位に選ばれた御岳昇仙峡などを有している。特産品は水晶やワイン、ほうとうなどがある。

今回話題になっている鳥もつ煮は甲府市民にとっては当たり前の料理で、戦後間もない頃から蕎麦屋の老舗で考案され、その後飲食店に広がっていった。甲府市民・山梨県民にとっては当たり前の食べ物すぎて、他にはないものだという自覚が少なかったということも今回のきっかけになっている。

【研修】

歓迎のあいさつを「議会事務局 議会事務総室長 雨宮氏」よりいただいた。

その後、説明を「産業部 産業振興室 観光開発課長 功刀(くぬぎ)氏」よりいただいた。

以下は説明とその後の質疑応答内容を抜粋した。

         甲府市職員有志によるまちおこしボランティア『みなさまの縁をとりもつ隊』の活躍(2008年設立)。

代表:甲府市中央卸売市場経営計画課主任(当時) 土橋克己氏

隊長:甲府市教育部教育総室総務課主任(当時) 山本和弘氏

宇都宮市の餃子による町おこしが市の職員によって行われたことに刺激を受けた。

         B-1グランプリ以前は県外の人には全く知られていなかった(その自覚が少なかった)。

とりもつ隊の地道な調査で市民・県民の意識、飲食店の意識なども見えてきた。

         B-1グランプリ金賞受賞までは、行政として一切援助はしなかった(温かく見守っていた)。

飲食店や趣旨に協賛してくれる企業の協力と職員の手弁当で行った。

自主的に行ったこと、若い感性が最大限発揮できたこと、本人たちが楽しんでやったことが成功の理由。市職員が活動する背景には、町に活気がなく閉塞感を打破したいという思いと、以前あった市職員による不祥事からくる住民の不信感を払拭したいというものがあった。

これまでにも市職員によってイベントなどで「ほうとう」を振る舞う活動などボランティアはあった。

         経費がかかる遠方でのイベントは有料にしてまかなった。

会計報告を明瞭化する指導を行っている。

         グランプリ金賞受賞と、経済効果は行政にとっては降って湧いた話→最大限に活かす努力を施策中。

副市長をリーダーとする地域ブランド化ためのプロジェクトチームを立上げた。

とりもつ隊が自主製作していた観光案内リーフレットの改良や印刷費用を負担するなど広報宣伝活動を行った。独自にポスターや横断幕、看板、タクシー用マグネットシールなども作成した。

広告費用総額200万円。

         今回の盛り上がりは「鳥もつ煮」のポテンシャルとともに「B-1グランプリ」のパワー、影響力が大きい。

今後更なる活性化のために将来的に「B-1グランプリ」の主催を目指す。その過程として地域ブロック大会の運営や、他の食のイベントの開催を計画中。

B-1グランプリを主催している「愛Bリーグ」に加盟して、審査を得て出場権を獲得するのだが、まだまだ全国の有名グルメでリーグに加盟していないところもたくさんある。そういったところも集めたイベントを計画中。

         この盛り上がりを一過性のものでなく、恒久的なものにしていくための様々な努力。

実はグランプリ受賞後「にわか鳥もつ煮」を出す飲食店が増え、観光客や地元住民から多くの苦情が入った。今後基準を設け、認定店制度を進めていく準備中。

         『とりもつ隊』とその活動をさらに活性化するためNPO法人化に向け申請中

NPOの代表は公務員でもできる。非営利での活動を今後も継続。

         経済効果はシンクタンクの調査で約28億円。決算総額が676億円の都市にとって無視できない金額。

直接効果

県産業への需要発生

商品売上額

鳥もつ煮

1.81

関連商品

2.09

観光客消費

飲食、宿泊、交通

10.00

メディア

広告料換算

4.84

合計

18.74

 

18.74

間接効果

原材料などの生産誘発

5.52

所得増加に伴う消費誘発

3.70

合計

27.97

※(財)山梨総合研究所調べ、単位は億円

【所感】

当事者の山本氏、土橋氏のお話しが聞けなかったことは大変残念だったが、受賞後の行政の対応などについては大変参考になった。またこのチャンスを最大限に活かすためのプロジェクトチーム立上げのスピード感はお堅いイメージの行政においては画期的なことと感じた。若い市職員が自ら喚起して町の活性化のために立ち上がったことについては、「突然変異」ではなく以前から庁内にそのような風土があったということは見逃せない。確かにB-1グランプリ受賞は降って湧いたような話だが、これは日頃から行政はもちろん、商業、観光各界が何とかしたいと真剣に考えているからできるレスポンスだと思う。また「愛Bリーグ」のように全国的に町おこしをしたいという団体が増えてきているので、そのような活動にもしっかりアンテナを張って有効に活用することも大切だと感じた。また、これからの町おこしはマスコミやインターネットなどを大々的に活用する必要があることも痛感した。

知立市における地域振興は、まずその風土(空気・環境)作りと、人作りが大切だと思う。商工会やJCなども様々な取り組みを行っており、今回甲府市の活躍を見て「決して自分たちには不可能」とは感じず、むしろ「努力をすれば自分たちにも十分できる」という感想を持った。B-1グランプリ受賞ということから28億円もの経済効果を生んだサクセスストーリーはぜひ近い将来知立市でも起こしたいムーブメントである。そのための風土作り、人作りを絶やさず、あとは最大の鍵になる武器(商品)作りを商工会などとも模索していきたい。

お忙しい中ご対応いただいた、甲府市担当者の皆様ありがとうございました。

 

210日 長野県松本市 「議会基本条例」先進市

知立市も昨年12月定例会で「議員定数問題や議会基本条例」について調査研究する目的で、議会改革特別委員会が設置された。私もその委員として議会改革の一翼を担うべく先進市での研修に臨んだ。松本市は早稲田大学マニュフェスト研究所の調査で、議会改革度全国第1位にランキングされた。近年地方分権の時代を受けて、議会改革に取り組む自治体は多いが、その中で第1位として評価される部分、他との「違いの出る違い」を探した。

松本市は医師出身の菅谷市長のもと「健康寿命延命都市」プロジェクトを展開しており、市役所は名跡松本城のすぐ隣にある。

【研修】

歓迎のあいさつを「松本市議会 議会運営委員長 芦田議員」よりいただいた。

その後「議会事務局長 林氏」、「議会事務局次長 渡辺氏」、「議会事務局係長 喜多村氏」よりいただいた。

以下は説明とその後の質疑応答内容を抜粋した。

         条例制定の背景と経過は配布された資料の通り(以下、抜粋)

①平成194月改選後、正副議長選挙の際の所信表明演説で議会改革と条例制定を訴えた議員が当選した。「議会と議員の行動指針の明確化」

②ステップアップ検討委員会を同年8月設置し、平成214月までの18ヶ月間に41回の会議を開催した。

③平成20年の1年間をかけて先進地視察やセミナー参加などを経て素案を作成した。

④パブリックコメント、執行機関の見解、議員協議会を経て条例成案。平成223月議会において全会一致で可決した。(4月施行)

         条例の内容としてのポイントは以下の通り。

①議会への自由な市民参加と市民への説明責任、意見交換会の設置

②議会の情報常時公開を義務付け(ケーブルテレビやインターネット中継)

③当局による議員の質問に対する反問権を明記

④議員間の自由討議を認める

⑤議会独自の政策の立案、提起を明記

         ただし、あまり具体的なことは記載せずいわゆる「理念条例」を目指した。

条例で詳細を決めてしまうと逆にそれに縛られて身動きが取れなくなる可能性を危惧した。

ただし理念条例では実効性に乏しく役に立たないので、改革を推進するための組織を設置した。

         活動原則に応じて4つの部会を設置して、自ら企画、立案、運営。

①~③のいずれかにすべての議員が必ず所属。④は各部会の代表者と正副議長により構成。

①政策部会…政策提案、提言の研究、検討。議会運営の充実、効率化の検討。研修の企画、運営。

②広報部会…情報発信、提供方法の検討。議会広報との連携。議会報告会の企画、運営。

③交流部会…市民参加、連携の検討。市民意見の把握方法の検討。他市との交流、連携の検討。

④進行管理部会…具体的施策の進行管理、検証。各部会の調整。

         条例制定後、各部会の提案で様々な取り組みが実行された。(以下抜粋)

①政策部会

     請願・陳情の趣旨説明の導入(平成216月定例会より)

委員会審査時に説明の機会を保障(5分程度)→説明後請願者に対して質疑

     地域に関心が深い議題については、当該地区で移動委員会開催(4回)

     政策提案・政策提言の推進(平成22年度より)

常任委員会ごとにテーマを設定し、研究。研究結果を「議会政策討論会」で論議する。

     議員研修の充実(平成22年度より)

新規研修会の実施(年2回の専門家による講義や新人議員研修会を設置)

②広報部会

     委員会レポート…委員会審査状況や議会活動を地元ケーブルテレビで放送

     議会報告会(8回開催)…一方的な報告だけでなく、市民から議会に対する意見・提言をいただく

③交流部会

     各種団体との意見交換…区長会、まちづくり推進団体など

     市民交流会議…「松本市ステップアップ市民会議」

委員を公募(定数15人)、任期1年、年4回開催。

委員からの意見、提言を議会活動、議会運営に反映させる。

市民が言いたい放題発言する場にならないよう、議会、委員会を傍聴していただいた上での具体的な発言に限定する。

         議員定数削減については定数が34人に対し、現状は合併特例で42人いる。今年4月の改選時の定数ではかなり議論した。様々な調整の結果昨年7月に31人(△3人)で決着がついた。

この件に関しては議会報告会でも市民の皆さんからたくさんの意見がでた。これを話題にしたときの報告会が一番参加者が多く関心の高さを実感した。議員定数削減には賛成意見だけでなく反対意見も出た。もちろん報酬に関しても、政務調査費に関しても様々な意見が出た。

議員定数には正解がない。減ればその人数でやっていくだけ。仕事は増えて人数は減るのでこれから大変になるができうる限りのことはやっていく。

【所感】

芦田議運委員長は答えにくいことにも気さくに回答してくださった。正直条例文を見ただけのときは「何故これがNo.1なのか?」と、疑問も感じたが「条例に魂を入れる」ための、部会の設置や具体的な活動を聞いて納得できた。条例に細かく書きすぎて身動きが取れなくなることを考慮して、条例は理念を、詳細は要綱などで決めていくことで、柔軟性をもたせたことは知立市にとっても参考になると思う。松本市は人口24万人、約1千平方キロメートルという広大な面積だからこその苦心もあったが、わずか人口7万人、16平方キロメートルの知立市であれば物理的に実施することは十分に可能であると実感した。私自身かねてより、現状の議会や議員に対する市民の認識を見て強い危機感を感じ、広報活動にはもっと力を入れていくべきだと確信し、独自に活動も行ってきた。今後は議会として危機感を共有し、市民の負託を受けた同じ立場として議会・議員の正しい姿を広く市民の皆様に知っていただく機会が増えればと思う。また、市民の代表としての高い見識を常にもち、努力を怠らず、モチベーションを高く保ち続けることがこれまで以上に重要になってくる。また議会改革を進めるにあたっては市民にも市長等と議会の役割の違いを正しく理解していただくことも重要で、その上での意見交換でないと、ただの苦情発表会になってしまうことも理解できた。

条例はあくまで条例、魂を入れていくのは議員本人たちだということもあらためて実感した研修だった。

質疑応答で盛り上がり時間が不足してしまうくらいだったが、三浦議会改革特別委員会委員長のもと、知立市の身の丈にあった議会改革、定数削減、議会基本条例の制定にこれから尽力していきたい。

お忙しい中ご対応いただいた関係者の皆様、ありがとうございました。


【企画文教委員会・行政視察調査報告書】

視察調査報告:知立市議会議員 田中 健

日程:平成22118日~9

場所:兵庫県小野市、宝塚市

 

1日目≫

小野市調査「おの夢と希望の教育」教育振興基本計画

小野市役所において、小野市市議会石田議長、教育委員会学校教育課神戸課長、大西係長から説明を受けた。小野市はそろばんの生産地として全国シェア70%を誇っている。かつては計算機として生活に必要不可欠だったそろばんもIT化に伴い産業は衰退傾向にあるが、市民はその誇りを失っておらず、全市を上げて教育振興に強い信念を持っている。今回の振興計画も教育委員会が中心となって小中学校の児童生徒のみならず、保護者はもちろん、地域住民まで巻き込んだとてもユニークで勝つ興味深い内容だった。

(研修内容)~小野市教育委員会説明による~

「小野市の教育戦略」

理念:脳科学と教育

施策:2015年問題を視野に入れたオンリーワン教育事業

1.今からの子どもたちが迎える時代(2015年問題)

    世界経済大競争時代

    科学技術立国

    表現力(コミュニケーション)

これらの時代を生きぬく力を身につけるために

    心の教育

    基礎学力の養成

    体力の養成

    時代対応

という4つの柱を立て、さらにその中に独自の取り組みを行ってきた

 

2.おの検定と脳科学

平成16年にニンテンドーDSの「脳トレ」で有名な東北大学川島隆太教授の講演を行ったことがきっかけとなり、教育戦略の基本的な考えに「脳科学理論(別紙参照)」を積極的に取り入れる。「脳科学」は学術的にすべて解明されているわけではないが、「前頭前野を健康に育てるのが教育」の目的という核となる理論を手にした教育委員会は平成17年に川島氏を教育行政顧問に迎え、その後強い信念のもと独自の事業を展開してきた。小野市に限らず現代社会が抱える問題として「学習意欲の低下」や「家庭に学習の場がない」などがあり、これらを解決するために教育委員会と現場教職員、また保護者家庭や地域が一丸となって取り組んできることがうかがえた。

    ハートフルチャレンジ・おの検定(平成16年~)

「漢字・計算・体力」の3つからできており、漢字・計算は各学年に応じたテキストを独自に作成し、簡単な基礎問題を中心に繰り返し学び、基礎学力と学習意欲の向上と豊かな心を育む。学期ごとに検定試験があり補習や追試験もある。検定専門の学習支援員を3名市独自で採用し現場教職員の負担を増やさないよう配慮もしている。体力は縄跳びを個人・団体で行い、基礎体力向上とコミュニケーション力育成に役立っている。

現在は「脳科学理論」に基づいて音読やスピード計算テキストも追加され活用されている。さらにパソコン版も開発され、個別指導などにも利用されている。またおの検定は一般市民も参加した市民検定に発展し生涯学習として活用され保護者も子どもと一緒になって検定に取り組んでおり親子のコミュニケーションに役立っている。またユニークなところでは加古川刑務所でも受刑者指導に活用されている。

    小中連携教育

脳科学の知見により前頭前野の成長に合わせて「03歳までの急成長期」、「410歳までの緩成長期」、「10歳~加速成長期」に分け、義務教育においてはいわゆる「10歳の壁」を基軸とした仕組みを独自に作り「63か年教育」から「9か年教育」という考えに切り替え9か年を「小14年の4か年」を前期、「小5~中13か年」を中期、「中232か年」を後期としてそれぞれにテーマを持った一貫した連携教育を行っている。とくに10歳の壁を越えた中期に重点を置き、いじめや不登校のきっかけとなりがちな「中1ギャップ」に対応している。市内8小学校、4中学校を中学校単位のゾーンに分け、研修や行事による児童生徒間交流だけでなく、教員交流(中学校教員が小学校で教える)も行っており、子どもの不安感解消や心の準備に役立っている。成果として現在「不登校0」ということで大きな注目を集め、市外から転校してくる例もある。

    保護者支援「子育て、親育ち」

脳科学の知見により前頭前野の発達は未就学時期に大きなウェイトが占められている(03歳までが急成長期)ことから「16か年教育」と題して「-1歳~15歳」の16年間の教育にチャレンジしている。教育委員会が主導となって部課をまたいで連携した親の教育に力を入れていることは画期的な取り組み。

(ア)未来のパパママ教室(年6回)…胎教

(イ)7か月児教室(年12回)…胎教

(ウ)いきいき子育て支援教室(年16回)

(エ)幼保指導者研修会…職員研修

 

3.まとめ

    厳しい財政状況であることは小野市も変わらないが、特色ある学校教育予算は10年前に比べて約3.6倍の2.4億円になっている(投資事業は除く)。しかし行政の強いリーダーシップと市民の理解のもと、議会でも承認されている。

    教育改革で一番大切なことは「教員の意識改革」と明言し、前例踏襲を改め学校と教育委員会の新しい関係を成立させた。

    国が主導で行っている経済対策の「ICT推進事業」も小野市独自型を策定し、電子黒板や大型地デジテレビの導入をやめ、プロジェクターと教材提示装置(カメラ)を各教室に1台ずつ設置し授業に活用している。これも現場教職員との話合いのもと出された結論で、現場教職員も満足している。ちなみに電子黒板1台(ハードのみ)で小野市のセットが約6セット購入できる。こういうところで「限られたお金の有効的に効果的な使う(神戸課長談)」努力が行われている。確かにICT推進事業は国の全負担で導入しても市に痛みはないが、導入後の維持費管理費(ソフト代、修理代)は市負担になるので小野市の選択は一理ある。

4.所見

基軸となる知見と強いリーダーシップがうまく融合して実現した稀有な例だと感じたが、聞く側に羨望の感を抱かせる魅力的な取り組みであることは事実。現在年間200件を越える視察を抱えているということも理解できる。またおの検定は視察研修後に第2の検定が滋賀県栗東市で始まっている。脳科学理論に関してはすべてが学術的に解明されておりわけでなく、即座に全市が導入というわけにはいかないだろう。しかし、市として「子どもたちへの教育」というものを第1ビジョンに掲げ、その遂行のためにすべてを巻き込んで費用も労力もかけて全力で突き進んでいく姿勢は現在の知立市にかけている空気だと実感した。今回の研修ではそういった姿勢を学んだとともに、今を生きる大人として未来を託す子どもたちにしてあげられることが何かということを考える責任があるとあらためて実感した。子供たちが学ぶことができる短く限られた期間を有効に効果的に活用できる、またそれを支える大人たちがしっかりとした知識、考えを持って接することの重要性を再確認できた。

 

2日目≫

宝塚市調査「小・中学校への大学生派遣」について

宝塚市役所において、宝塚市議会石倉副議長のあいさつの後、教育委員会学校教育課橘課長から説明を受けた。宝塚市はダリアの生産で日本一を誇り、市内に宝塚歌劇場や阪神競馬場があり、また漫画家手塚治虫氏が青春期を過ごしたということから市立手塚治虫記念館を運営している、文化芸術に盛んな都市である。「子どもは地域で育ち、学校の地域が育てる」というスローガンのもと、「みんなの先生」制度を設け、地域ボランティアの活用や、近隣の大学と協定を結び、学生を教育の場で有効に活用する取り組みは大変興味深いものであった。

(研修内容)~宝塚市教育委員会による~

「小・中学校への大学生派遣」

目的:大学生や大学院生を市立の小・中・特別支援学校へ派遣し、子どもたちに関わることで、子どもたちの学ぶ意欲、基礎学力の向上を図り、学校教育の一層の充実を図る

経緯:平成18年度より大学との協定が始まり、現在11校と協定を結んでいる

内容:6種類の事業を持ち、それぞれが独自に運営されている

1.事業内容

    スクールサポーター派遣事業(13時間目安:2000円)

    教科学習の指導補助

    休み時間や放課後の補修補助や遊びの支援

    休業日や長期休業中の補修補助

    Palふれんど派遣事業(1回:1700円)

    適応教室の支援

    引きこもり児童生徒宅への訪問

    子ども支援サポーター配置事業(学生×)

    子ども支援事業「支援ボランティア」(1時間:300円)

    特別な支援が必要な児童生徒への支援

    自然学校推進事業(45日:50000円)

    小学5年生の自然学校の指導補助

    特別支援教育推進派遣事業in栃木(無償)

    障害のある中学3年生を親元を離れて自立を目指して派遣する事業の補助

2.成果

どの派遣事業においても、年齢が近い大学生が児童生徒と関わる中で、信頼できる人間関係を築きあげひきこもりの子どもが外に出るようになったり、学習意欲が高まり自主的に課題に取り組めるようになったりした事例があり、成果となっている。

 

3.今後の課題

募集人数に満たないケースが多く、事業内容によっては大学協定校の学生に限定せず人数確保や幅広い人材を求める意味からも広報にも掲載し募集している。今後は大学協定を活かした人材確保のための更なる働きかけをするとともに、活動の条件整備もすすめる。

4.所見

現在知立市も愛知教育大学と連携を取り、学生による知立東小学校での外国語教育の指導補助を得ている。また、同大学の総合実習や総合演習(6年一貫ゼミ)のカリキュラムとして、大学側から学生派遣のアクションはあるが、宝塚市では教育委員会が主管となって事業をコーディネートしている。また大学との協定も行政側から積極的に推しすすめ人材の確保に尽力している。市内学校への事業内容の案内や説明、人材要望の整理や、大学への案内や募集、応募者の面接や研修もすべて教育委員会が行い、学校現場への負荷はほぼないと見受けられる。これであれば現場と教育委員会がうまく連携が取れ、学校も人材の有効活用に集中できる。知立においては時折、事業計画は立って学校に下りてくるが、現場に一任で教職員の負担が増えているなどということも耳にすることがある。また防犯を含めた学校ボランティアも実質的には学校単位で事業を行っており学校格差は激しい。ボランティアに報酬を支払うことの是非はあるとは思うが、小野市も同様であったが、教育委員会本体がしっかりとしたビジョンを持つと同時に、現場との連携を最優先し、本当に今学校で必要なことに特化した事業をまず教育委員会が汗を流して動いてみるが重要であると考える。もちろん、今回の両市とも完全であるとは言えず、宝塚市においても今年7月に市立中学校生徒が家族3人を殺傷させた放火事件を起こしている。ただこれを特殊な例と考えずに「居場所のない子ども、悩みを抱えている子どもの避難場所(保護ではなくあくまで避難として認識)」を設置し、教育委員会が24時間対応で取り組むといったすばやい動きをしている。知立市も愛知教育大学との連携をさらに強め、また市内から近隣市に通っている大学生の能力を有効に活用し、彼らにとっての学ぶ場と、学校の負担軽減の「Win&Win」の関係が成立できる良い事業を推進していく可能性は今後も探究する価値があると考える。

 

≪総まとめ≫

両市を視察調査し、知立市においてもますますの教育改革を進めることが望まれ、それを所管する企画文教委員として微力ながら今後もますます尽力していきたい。なお、通常業務で多忙な中、今回の視察を快く受け入れてくれた小野市・宝塚市両議会事務局ならびに教育委員会には深く感謝する。また、企画運営を行った山崎企画文教委員長ならびに永井副委員長、また議会事務局池田係長にはあらためて感謝の意を表する。(平成221110日 知立市議会議員 田中 健)


政務調査報告書

全国市議会議長会研究フォーラム

日時:平成221020日~21

主催:全国市議会議長会 後援:総務省

場所:大分市・いいちこ総合文化センター

 

今年で5回目になる本フォーラムに今年は全国から市議会議員約2,300人が集まった。

1日目】

初日は河野洋平前衆議院議長の基調講演から始まり、同氏から国会と市議会の関係について「国の根幹を担う地方自治をまかなう市議会から、もっと国会へ請願・陳情があっても良い」との指摘。市民生活の一番現場に近いところにいる市議会議員は、市民の代表でありその市民の声を県会・国会に届けることも重要な役割。河野氏が例としてあげた「政治資金規正法」「小選挙区制」「憲法改正」などでも、国会で審議することだから国にすべてお任せするのではなく、それらに対しても市民の声を代表として届ける任務もあるのだと感じた。

続いて地方自治が専門である大学教授や市議がパネリストとなって「地方議会のあり方-定数・報酬はどうあるべきか」をテーマにパネルディスカッションが行われた。コーディネーターを務める広瀬克哉法政大学教授から「地方選で注目されるのは首長選で、議会への市民の注目は低い(投票率が約20%下がる)」との指摘。また議員定数・議員報酬の半減を訴える首長が市民の支持を得ているという名古屋の例を挙げ「議会改革=定数削減・報酬カット」という考え方は間違っている。本来の議会改革は「議会のあり方、議員の働き方」について考えるべきであって、必ずしも節約を求められているわけではない。「報酬に見合った仕事をしているのか?それだけ人数がいて何をしているのか?」ということに対する市民の素朴な疑念を「パフォーマンスのうまい首長が議会を悪者にしてうまく利用している」と厳しく指摘。現に会津若松市議会が「議会制度検討委員会を立上げ、議会や議員の仕事量を明確にし、必要な議員数や適正な報酬を算出して市民の理解を得ている」との例を挙げ、必ずしも減らせありきではないという見解を述べた。つまり、そのような市民の声に対し、危機感を持ってしっかり対応しなかった議員側にも大きな問題があり、それも含めて怠慢であったということは事実。

パネリストの中邨章明明治大学教授は「名古屋の首長は地方議員の報酬が高い例として欧米を引き合いに出すが、諸外国と日本では議会の扱う業務の幅が全く異なり単純な比較はできない」と指摘。よく言われる日当5,000円という報酬の海外の議会では、いわゆる3R「Rubbish(ごみ)、Road(道路)、Rate(料金)」を扱うのみで、日本の地方議会は市民生活すべてについて議論しており、質も量も違う。しかし日本では議員の活動について理解されておらず、「これはしっかりとした広報を行ってこなかった議員に原因がある」と指摘。

同じくパネリストの大山礼子駒澤大学教授は「地方議員は情報発信力が弱い。ホームページなども貧弱で情報が少なく、中身を見たら載せるような情報も仕事も何もしていないと思われる」と厳しく指摘。

マスコミからパネリストに参加した谷隆徳日本経済新聞社解説委員は「社会の閉塞感や不満の捌け口のひとつとしてガス抜きに利用されている。地方議員がこの現実に対し本気になって市民に働きかけていくことが重要」と指摘。

議員の代表としてパネリストに参加した仲道俊寿大分市議会議長は「議会・議員が市民から信頼されていないということが、統計的にも数字で示されている。平成の大合併以降約60,000人いた地方議員が約34,000人にまで減り、約1200億円の人件費が削減された。定数の見直しや議員内閣モデルの導入といった地方議会制度改革についても、市民との対話を重ね、地域の実情を反映した独自のものを検討する必要がある」と主張した。

さらに中邨氏からは「政治不信という統計はあっても、実は行政にしっかりして欲しいという依存心を市民は持っているというデータもある。ここでしっかり仕事をすれば挽回のチャンスはある」と提言。「市民の目を議会に向けるために市民集会などはまだまだ手ぬるい。得票数での歩合制にするなど大胆な改革が必要」との発言もあった。

続いて広瀬氏から「今までの議員は特定の組織・地域が支持基盤であり、そこへの利益誘導が大きな役割だった。自分たちは動かずに、自分たちの利益のために議員を動かそうとする市民のお任せ民主主義的な考え方も問題がある」と指摘。議員が市民に働きかけて市民を動かすために住民投票なども利用してはいかがと提案があった。

ここまで前提論を話合った上で本題である「議員の定数と報酬について」の議論が始まり

    制度の改革で解決する問題ではない

    大阪府の橋下知事の唱えるシステムは原理原則が違う(政と行の分離は必要)

    二元代表性において首長と議会では現状は明らかに首長が強い。ガチンコ勝負ができる仕組みづくりが必要。

    百条調査権など今ある仕組みをもっと使い倒すことが重要

    発信だけでなく吸収も大切。パブリックコメントも行政に取られるのではなく、議会がやるべき

    兼業の道をすすむか、専業の道をすすむか?専業の道をすすむのであれば行政との分離を徹底的に進めるべき

    議員間討議をできるようにするべき。そのためには議員の数が多すぎる都市もある。

などの意見がパネラーからあげられた。

1日目の最後に、参加者からの質疑応答が行われたがその中での「今の地域主権・地方分権ついてどう考えるか?」という質問に対して、「地域主権・地方分権が進むと、首長の権力はもっと強くなる。それに対峙できるよう議会も力をつける必要がある。」という回答であった。

 

2日目】

2日目は課題討議が行われ辻山幸宣中央大学大学院客員教授をコーディネーターに①「政治倫理条例について」、②「議会の調査権について」という2つのテーマに対してそれぞれ2名ずつの報告が行われた。

「政治倫理条例について」では、石川県かほく市の杉本成一市議会議長と、佐賀県佐賀市の福井章司市議会議長から報告があり、かほく市に関しては平成16年の3町合併の際にルールを統一させるために制定した。佐賀市に関しては議員が関与する不正事件があり、再発防止と信頼回復のために制定された。特に佐賀市の特徴としては条例で国会議員と同じく市議会議員に資産公開義務を定めている。私個人の見解としては市民と同等程度の報酬を得ている市議会議員に果たしてそこまですることが妥当か疑問を感じた。プライバシーの問題だけでなく、制定の経緯を聞いていても、市民のためというよりも、問題が発生し、疑念を持たれた議会が保身のために定めたという感想を得た。また現在の議員報酬では専業で行うことがかなり厳しいため、兼業で行っている議員が多くいるが、その所得やそこで得た資産まで公表するとなると、興味本位で見た市民が公開された内容で様々な憶測を生み、議員の印象すら変える可能性がある。それが議員本来の活動の妨げ、制約につながるおそれさえあると感じた。政治倫理条例はこのようなネガティブな環境で策定されるのではなく、「議会はどうあるべきか、議員はどこまで活動できるか」などのような、ポジティブな環境で策定されることが望ましいという感想を得た。

「議会の調査権について」では、東京都稲城市の川島やすゆき市議会議長と、長野県飯田市の中島武津雄市議会議長から報告があり、稲城市に関しては「特定所管事務調査」について報告された。同市では平成7年から議会改革に取り組みその改善項目の中に「委員会中心主義への移行」を掲げ、平成9年から自主的に調査を行うための特定所管事務調査を開始した。飯田市においては「行政評価の取り組み」として基本構想基本計画の進行管理を議会が行う取り組みが報告された。いずれの例も議会がその役割をより高いレベルで果たすためにどうするかという努力がうかがえた。

今回の研修フォーラムと通してあったテーマとして「議会・議員はどうあるべきか?」があり、1年生議員の私にとってはあらためて議員は襟を正す良い機会となった。これまでの政治家のイメージにあったいわゆる特定の団体・企業への利益誘導といった「どぶ板、口利き」から脱却する今まさにそのときであるという実感を持った。議会内における「行政監視、予算認定」という作業だけでなく、厳しい予算状況から「事業仕分け、事業進捗管理・評価」をしっかりすすめ、議会外においても厳しい市民の監視のもと「調査・研究、情報発信」などを様々な機会を通じて継続的に行い、市民の代表としての自覚を強く持ちリーダーシップを発揮していく必要性を実感した。11人の議員が自分たちに向けられている市民の厳しい目を実感し、危機感を持って真剣に取り組んで聞くことで信頼を勝ち取ることができれば、厳しい状況の中でも「自らの理念信念を実現させるための後押しを市民の方にしていただけるようになる」というまさに「ピンチをチャンスに変える」ことができる。知立市においても定数削減を含めた議会改革が必要な時期にきている。これからしっかり知立市民のために「議会がどうあるべきか」を研究・討議を行い、「新・知立市議会」の実現に向けてその一端を担うべく尽力していきたい。

(平成221025日 知立市議会議員 田中 健)